トウゴクシソバタツナミソウ

トウゴクシソバタツナミソウ (シソ科タツナミソウ属)【東国紫蘇葉立浪】
Scutellaria laeteviolacea var. abbreviata

トウゴクシソバタツナミソウ

2020/06/04 高尾山

タツナミソウの仲間は種類を見極めるのがなかなか難しいグループですが、このトウゴクシソバタツナミは、どうもいろいろ混乱している感じで、この名前に辿り着くまでかなり紆余曲折しました。

というか、この先も調査が必要です。

当初、これは高尾山のメインルートの路傍に普通に見られたので、一番普通に多いとされる「オカタツナミソウ」だろうと思っていました。

ところが、オカタツナミソウの特徴とされる”一番上部の葉が一番大きく、下の葉との間隔が広い”というのにまず当てはまりません。

下の葉ほど大きく、背が低めで間隔も詰まっています。

また、茎には開出毛があり、下向きの縮毛ではありません。

葉に「斑」は入っておらず、葉の裏は早い時期ではやや赤くなっていますが、花期には赤くありません。

しかし、いくつかの資料をあたっても葉裏が赤くなるのは絶対条件とはしていないようです。

それよりも葉裏に腺点が見当たらないことの方が重要なようです。

また、葉の表面がオカタツナミのように白っぽい艶消しではなく、艶っぽい濃い緑です。

そして、何より”顔”が違います。

下唇弁が上唇弁と同色で中央が白く抜け斑点があります。

これは、いわゆる「シソバタツナミ」とよく似ており、この地で見られる「オカタツナミ」「ヤマタツナミ」「コバノタツナミ」とは違うパターンです。

ちなみに「タツナミソウ」の模様には似ていますが、花の元のほうで白グラデーションになることは他のタツナミと同様です。

そして気になるのは、対生する葉の付け根にはっきりとした托葉のようなものが見られることです。

しかし、どの図鑑にも托葉についての言及がないので、これは葉腋から花茎が側生するということかもしれません。


その後、いろいろ情報収集して埼玉県の丘陵地にもありそうなことが判りました。

何度か探索行を重ねて、怪しい葉が多く見られるエリアを発見、開花期を狙って何度か行ってみると開花に出会うことができました。

深い林内のやや薄暗く湿った沢沿いにたくさん生えています。明らかに「オカタツナミ」や「ヤマタツナミ」とは生育環境が違い、ここには他のタツナミが見当たりません。

東京都:絶滅危惧Ⅱ類(VU)
埼玉県:準絶滅危惧(NT)
千葉県:絶滅危惧I類


日本の総合植物図鑑の頂点のひとつとされる、平凡社の「日本の野生植物(旧版 12刷 1984)」の写真を見ると、「ホナガタツナミソウ」というのが一番似た感じです。

この図鑑によると、「トウゴクシソバタツナミ」は「ホナガタツナミソウ」の品種とされています。

そして、茎に開出毛が多いという違いしか述べていません。

ここで問題となるのは、「トウゴクシソバタツナミ」の写真が葉の脈に明確に白い斑が入っている点です。

山と渓谷社の「山に咲く花」でも同様の写真となっています(しかも”日光”となっている)。

しかし!

旧版「日本の野生植物」での、「トウゴクシソバタツナミ」の写真は”日光植物園植栽”となっているのですが、この当の東京大学日光植物園のウェブサイトに、現在訂正文が掲載されています。

最も信頼できる植物図鑑の1つである、平凡社の「日本の野生植物」において、シソバタツナミ、トウゴクシソバタツナミ、ツクシタツナミソウの分類に混乱がありました。今回2015年の改訂新版に準拠し、これまでシソバタツナミとして掲載していたものは、ツクシタツナミソウとして訂正し、掲載し直しました。シソバタツナミとして掲載できる写真が撮れたらこちらにアップします。
葉脈は目立たないか、赤紫色に染まるものがあります。葉は草の下の方が大きく、上にいくにつれて小さくなる特徴があります。茎の毛は下向きが多いようです。

シソバタツナミ - 日光植物園 - Scutellaria laeteviolacea

つまり、葉の脈に白斑が入るのは「ツクシタツナミソウ」であって、これを「シソバタツナミ」としていたようです。

しかし、どうも単に「シソバ」と「ツクシ」の写真が入れ子になっていただけという単純な話ではなく、「シソバ」「ツクシ」「トウゴクシソバ」が混ざり合っていたような感じなのです。

しかも、旧版「日本の野生植物」で頼みの綱かと思われた「ホナガタツナミ」は、Ylistによると、独立種ではなく「シソバタツナミ」の異名となってしまっています。

そして、「トウゴクシソバ」は「シソバ」の変種となっています。

最新版の「日本の野生植物(2015年改訂新版)」ではどういう記載になっているのでしょう?

こんな高い本絶対買えないので、どこか図書館に出かけていくしかありません。

ウェブ上で調べた限り、このタツナミと同様の写真を「トウゴクシソバタツナミ」として掲載している方が何人かおられますが、どうやら高尾山の他に、御岳山、東京近郊の低山にあるらしいです。

そして、関西方面の方がアップする「トウゴクシソバタツナミ」は、いわゆるシソバ系の赤斑入りが多いような感じで、葉の表面もつや消しで微毛が多い感じです。

もしかしたら、厳密に調べてみたらこれは関東圏に生育する未だ分類の混乱している品種か変種なのかもしれない気もします。

さらに、Ylistによるシソバタツナミの変種は、

  • シソバタツナミ Scutellaria laeteviolacea
  • トウゴクシソバタツナミ Scutellaria laeteviolacea var. abbreviata
  • アオシソバタツナミ Scutellaria laeteviolacea var. abbreviata f. concolor

の3つとなっていますが、この「アオシソバタツナミ」というのが、WEB検索しても実態が不明で、いったいどのような植物なのか判りません。
学名からは「トウゴクシソバタツナミ」の品種となっており、その品種名が”concolor“「単色の」という意味で、和名が”青紫蘇葉”となっているということは、まさにこの”斑無し”トウゴクシソバタツナミのことと思えてなりません。
Ylistによると元となる文献が、1937年、1935年と戦前の古いものしかないようなのです。

この先は完全に想像(妄想?)の世界ですが、
このタツナミは、戦前に斑入り「トウゴクシソバタツナミ」の斑無し品種「アオシソバタツナミ」として記載されそのままになっており、現在では葉の斑の有無は区別しないことになっているのではないでしょうか。

だとしたら、このタツナミが「アオシソバタツナミ」なのでしょうか?

トウゴクシソバタツナミ

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【Youtube 山川草木図譜チャンネル】

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