カワラノギク (キク科シオン属)【河原野菊】
(Aster kantoensis)
関東周辺の太平洋側河川中流域の、丸石が転がっているような河原にのみ分布する希少な野菊です。
花はうす紫から白色の、いかにも「野菊」という花で、「ヨメナ」や「ノコンギク」に似ています。
また、同属だけあって「シオン」にも似ていますが、はるかに小柄で華奢な感じです。
草丈も、平均的には膝丈の上くらいです。
ただし、とても細長い線形の葉をもっていて、一般的な野菊とは趣が異なります。
おそらく、増水時の流水に抵抗が少ないように進化したのかもしれません。
また、総苞片もとても細長く、花弁の間から覗くほどです。
2年草とされ、一年目は独特のロゼットとなって年越しし、2年目に花茎を立ち上げて花をつけ種を散布するようです。
冠毛は長く、風で広い範囲に播種されると思われます。
ロゼットから伸びた株は、まるで花束のようにきれいにまとまって咲きます。
おそらくしっかりと根を張るのでしょう、増水で倒れた株も横倒しのまましっかり花を咲かせていました。
現在、多摩川、相模川、鬼怒川などで自生していますが、ごく限られた場所と個体数に限られ、かつて存在した静岡県安倍川では完全に絶滅したと考えられています。
生息に適した環境が極めて限られた条件なので、河川改修や河川敷の開発や整備によってますます存在が危機的とされているのです。
丸石がごろごろ広がっているような河原だけが生息地で、土砂や腐葉土が増えれば他の雑草や樹木が侵入して生息できなくなります。
また、川の流れに近すぎれば大きな増水のときに根こそぎ流されてしまいます。
理想的には、数年に一度から年に数回、丸石に堆積した土壌が洗い流される程度の増水が起きる環境が好ましいようです。
ところが実際には、堤防の整備やグラウンドや公園の整備で河川敷内の河原の範囲が狭くなっており、さらに治水の進歩で小規模の洪水が起きなくなっているので、このような環境の場所が無くなっています。
ちょうど、逆に定期的な増水によって泥が供給されるところに咲く「サクラソウ」が絶滅の危機なのと似たようなところがあります。
種類的には、静岡県以西の関西方面に分布する「ヤマジノギク」に近く、荒地に生える点も似ています。
この先は妄想ですが、昔、東日本にも広く分布していたヤマジノギクの原種が何らかの理由で衰退し、西へ後退してゆく際に関東各地の競合植物の少ない河原に取り残されたのがカワラノギクではないか、という感じがします。
多摩川中流域での自生地を訪ねてみると、ちょうどその一週間前の台風(2017/台風21号)の増水跡が河川敷の藪や茂みのあちこちに見られる中、増水で倒された株をあちこちに発見しました。
さらに藪の奥を辿ってみると、増水跡よりも僅かに高くなった丸石河原の一帯に、沢山のカワラノギクが満開となっていました。
数は見当がつきませんが、おそらく数千株以上はあると思われ、一年目のロゼットも多数生えていました。
大きな洪水が起きれば壊滅的かもしれませんが、今年のところは河原の藪やススキに囲まれた、「秘密の花園」です。
環境省カテゴリ:絶滅危惧Ⅱ類(VU)
東京都:絶滅危惧ⅠB類 (EN)
栃木県:絶滅危惧Ⅱ類
神奈川県:絶滅危惧ⅠB類 (EN)
長野県:絶滅危惧ⅠA類 (CR)
静岡県:絶滅危惧ⅠA類 (CR)
実際には、静岡県の安倍川ではおそらく絶滅、長野県は古い記録のみで現在状況は確認できず。
2017/10月の台風21号では、相模川の河川敷繁殖地で7割ぐらいの株が流失してしまったようです。
【追記】
2019年10月12日に上陸した台風19号の影響による多摩川の大増水により、この自生地の大半は地盤ごと流失し壊滅的打撃を受けたようです。
2020年秋時点では、個体数は激減しつつも残存しているようですが、この後どれほど復活してくるか要注視です。
【追記】
2021年秋にはこの地点一帯を探しに行った際、あれだけの大群生の場所周辺にひとつもみつけることができませんでした。
近隣の公有地に移植されたものだけが元気に咲いていました。
【追記】
2022年秋、復活! 2017年の時ほどではありませんが、同じ場所にあのときの数分の一ぐらいの群生ができていました。
おそらく数百株はあると思われます。
丸石が堆積した地形自体はあまり変わっていないので、洪水で表面の植生は全て流されても、砂利の中の根や種は休眠状態で再起を図っていたのでしょう。
この株は妙に花弁(舌状花)が細いと思ったら、「筒咲き」のようです。
「ヤマジノギク」では「ツツザキヤマジノギク」という変種が天竜川周辺に分布しますが、それと同様の形質がカワラノギクにも表れるようです。
そもそも、「ツツザキヤマジノギク」というのは「ヤマジノギク」と「カワラノギク」の交雑種由来という説もあるくらいですから、これも何らかの雑種がかかっているのかもしれません。
「ツツザキカワラノギク」などというものは無いようなのでたぶん個体変異の範囲なのでしょう。
【Youtube 山川草木図譜チャンネル】