カモメギク (キク科キク属)【鴎菊】
(Chrysanthemum seticuspe)
日本中で、皇居東御苑に植えられた2株しか存在しないといわれる黄色の野菊。
実態は、どうやら「キクタニギク(アワコガネギク)」の、江戸時代の古典園芸品種ということのようです。
一般的なキクタニギクに比べて、葉が細く切れ込んだ形となり、舌状花の花弁がやや細めとのこと。
ただし、その変異は個体変異の幅の範囲内ということで、古典園芸品種として固定されてきた形質なのでしょう。
この株自体、以前は吹上御所の中に昔からあったものを、普通のキクタニギクとの交雑をおそれた天皇陛下の指示によって隔離した場所に移されたとのことです。
いつ頃つくられた品種か判りませんが、おそらく江戸城内に植えられていたものが少なくとも百数十年ぐらい連綿と保たれてきたのでしょう。
2014年の国立科学博物館による調査解析により、生物学的には「キクタニギク」との違いは無いとされていますが、歴史的な価値として「カモメギク」と独立した別名で称される意味は充分あるのだと思います。
また、学名上はカモメギクはキクタニギクの母種として定義されているようです。
ちなみに「カモメ」の語源の意味は不明のようです。
(本ページ末に国立科学博物館報告書引用あり)
国立科博専報,(49) 2014 年
皇居の生物相 II.植物相
国立科学博物館植物研究部
カモメギクの細胞学では,本種が染色体数2n=18の二倍体で,減数分裂では正常な9個の二価染色体が形成され花粉稔性が高いこと,品種関係にあるキクタニギクと共通する核型の特徴を持つことが明らかにされた.
江戸時代にキクタニギクの変異個体から選抜園芸化されたと推察されるカモメギクが交雑を起こすことなく今日まで系統維持されてきたことは稀有なことであり,種の保全に果たした皇室のご配慮と隔離された場所としての皇居の生物学的な役割が改めて認識された.
皇居東御苑のみに栽培状態で知られているカモメギクとその野生品種として区別されているキクタニギクの形態と分子レベルで比較検討をおこない,
形態的にはカモメギクは野生のキクタニギクに見られる変異の一部であり,キク属の種・個体識別マーカーであるNCED3a遺伝子からはキクタニギクに標準的に見られる遺伝子型であることが確かめられた.
以上の点から,キクタニギクはカモメギクと同一の分類群として取り扱うのが妥当と考えられた.
カモメギクの葉に含まれるフラボノイドを分離し,これの品種であるキクタニギクと比較した.
その結果,2種類のフラボノイド配糖体,acacetin7-O-rutinosideとapigenin 7-O-glucuronideを同定し,他に2種類のacacetin配糖体も訂正された.
また,カモメギクのフラボノイド組成はキクタニギクのものと同一であった.
ちなみに、平凡社「改訂新版 日本の野生植物」の第5巻に掲載されている「カモメギク」の写真は私が提供させて頂いたものです。
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