クロヤツシロラン (ラン科オニノヤガラ属)【黒八代蘭】
(Gastrodia pubilabiata)
葉緑素をもたない、つまり光合成を放棄したランの花です。
いわゆる菌従属栄養植物の仲間で、地中の菌類ネットワークの栄養素に依存して生きています。
クヌギタケ属やホウライタケ属など、枯れ枝や落ち葉を分解して生きる担子菌類の菌糸を自らの菌根に取り入れて消化してしまいます。
竹林や常緑樹林の薄暗い林床に生え、花は落ち葉と同化したような黒褐色や赤褐色で、高さ2-3cm程度なので見つけるのがなかなか困難です。
上部で花茎が分岐して、1-8個の花をつけます。
花が開いた状態を正面からみると、構造的には立派なランの花のつくりです。
外側に大きく開いた3枚の萼片と、耳のように半分突き出した2本の側花弁、引っ込み気味の下唇弁、蕊柱と白っぽい葯などが確認できます。
下唇弁に毛が生えているのも本種の特徴で、同じような場所で花期も重なり地味な花も似ている「アキザキヤツシロラン」との識別点ともされています。
光合成をしないので暗い環境に生育するのは良いとして、地味ながらも花を咲かせるからには受粉は必要です。
薄暗い竹林の奥にはハナバチや蝶など全く来るわけもなく、藪蚊ばかりで蛾もほとんど見ません。
しかしよく見ていると、とても小さなハエが花に出入りしていました。
これらのランはキノコのような臭いを発し、キノコ類に擬態することでショウジョウバエやキノコバエ類を呼び込みポリネータとしているようです。
しかも、ハエが花の中に入ると唇弁が動いて一時的に閉じ込め、強制的に受粉に関与させる仕組みももっているそうです。
同属で同じ菌従属栄養の「オニノヤガラ」などが明るい草地に生えるのと対照的な、よりキノコに近づいた生き方を選んだ植物です。
関東から九州にかけて分布しますが、温暖化や放棄竹林の増加などで分布が広がっているともいわれています。
東京都:絶滅危惧ⅠB類(EN)