イヌビワ (クワ科イチジク属)【犬枇杷】
(Ficus erecta) 別名:イタビ
「ビワ」の名が与えられていますが実際は「イチジク」の仲間で、不味いという意味で「イヌ」をつけるのなら本来『イヌイチジク』とでもいうべきでしょう。
関東以西から沖縄、東南アジアまで分布する日本在来の植物で、江戸時代までこれが『イチジク』と呼ばれていたそうです。
現在の「イチジク」は中東原産で、江戸時代の17世紀ごろに中国経由で伝来したとのことです。
「イチジク」同様に、極めて特殊な花と実の生態をもっていて、特定の寄生蜂との共生関係を確立しています。
イヌビワは雌雄異株で、雌雄ともに果実として見えるものは「花嚢」と呼ばれる丸い花序であり、空洞の内部に多数の花がつきます。
この花序には「イヌビワコバチ」というイヌビワ専門の寄生蜂が宿ります。
イヌビワコバチの雌はイヌビワの雄花序の先端に空いた小穴から内部に入り込み、奥にある「虫えい花」という花の基部に産卵します。
孵った幼虫は、果実化した「虫えい花」を食べて成長し成虫になります。
成虫のうち、雌蜂は外に出てゆき、その際に出口の花粉をつけて運んでゆきます。
そして雌花序にたどりついた蜂はまた潜り込んで産卵しようとしますが、雌花の柱頭は長くできていて雌蜂の産卵管が届かず、運んできた花粉をそこいらに受粉させますが産卵はできません。
一方、雄花序で成虫となった雄蜂は外には出られず、たまたまやって来た雌蜂と交尾するだけでそのまま死んでしまいます。
つまり、イヌビワコバチはイヌビワの雄花序の内部でしか交尾も産卵もできず子孫を残すことができません。
また、イヌビワはイヌビワコバチの雌がいなければ受粉して種子を残すことができません。
すなわち、イヌビワとイヌビワコバチは共にそれぞれの受精システムのために、雄株の花嚢と雄蜂をいわば人柱のバーター取引のような感じにしていたのです。
このやり方はイチジク属の共通するシステムですが、「イチジク」には「イチジクコバチ」というように、世界に850種あるというイチジク属のそれぞれの種で一対一の対応となっているそうです。
一体、どんな進化の道筋を辿ってこのようなややこしい関係と特殊化が確立してきたのか、全く不思議でなりません。
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