オオエビラシダ (ナヨシダ科ウサギシダ属)【大箙羊歯】
(Gymnocarpium x bipinnatifidum) 別名:キレハエビラシダ
「エビラシダ」は、深山の湿った岩壁や斜面に生育するやや希少なシダで、葉身と葉柄の継ぎ目が120°ほどに「く」の字に折れ曲がっている変わった特徴があります。
以前から見てみたかったところ、奥秩父の山の2400mくらいの亜高山針葉樹林の林床で出会いました。
まさに葉柄が100°程に折れ曲がっていて、丸っこい羽片が特徴的です。
ところが、帰宅してよく調べたところ、普通のエビラシダにしては羽片の切れ込みが深く、最下部の羽片は中軸から独立しています。
一体何であるのか図鑑やWEBで探したところ、「キレハエビラシダ」というものが全く同じ姿で有りました。
しかし、さらに調べるとこれは「オオエビラシダ」という、「エビラシダ」と「イワウサギシダ」の交雑種であることがわかりました。
今では「オオエビラシダ」が正式で「キレハエビラシダ」は、その別名となっているようです。
「キレハエビラシダ」は1986年に長野県佐久市で発見され、エビラシダの変種ということで、1988年の「植物研究雑誌」に新種として発表されています。(Gymnocarpium Oyamense(BaK)ching var.Kusamae H.Ito)
極めて希少とのことで、佐久市の天然記念物にも指定されました。
ところがその後、伊那(南アルプス)で見つかった同種を研究したところ、イワウサギシダ×エビラシダの交雑種であることが判明し、1997年には学名が差し替えられました。(Gymnocarpium x bipinnatifidum Miyam.)
遺伝子解析からも雑種であることが証明されたため、2015年には佐久市の天然記念物指定も解除されてしまいました。
「エビラシダ」は、深山の湿った岩壁や斜面に生育しているやや希少なシダであり、「イワウサギシダ」も深山の石灰岩や蛇紋岩地帯に多いやや希少な種類なので、この両親からの交雑種は自ずと地域も限られ個体数も少ないものと思われます。
1992年版の平凡社・日本の野生植物・シダ編には、「キレハエビラシダ」「オオエビラシダ」の両方の記載があります。
エビラシダ
山梨県:絶滅危惧ⅠB類(EN)
長野県:準絶滅危惧(NT)
イワウサギシダ
山梨県:絶滅危惧ⅠA類(CR)
【Youtube 山川草木図譜チャンネル】