バックパッキング入門

バックパッキング入門 芦沢一洋
山と渓谷社 昭和51年(1976)

今は亡き芦沢一洋氏によるエポックメイキングな本である。

この頃まで、日本で本格アウトドアといえば即ち登山であり、それもフランスを中心とする、いわゆるアルピニズムが中心だった。
というより、「アウトドア」なる言葉さえ無かった。

ちょうどこの本が出る数年前から、日本にもアメリカ式の登山やキャンプの用品が入ってきていて、ヨーロッパ一辺倒から変わりつつあった。
シュイナードのクライミング用品、ケルティーのパックフレーム、ジャンスポーツのドームテント、シェラデザインのマウンテンパーカなど、それまで無かった感覚の用品が次々と現れて従来の「山屋」を戸惑わせたのである。

同時に「バックパッキング」なる概念が入ってきて、登山を包括しつつ従来の登山と違う、といってワンダーフォーゲルなどとも違う徒歩旅行の形が徐々に認められるようになってきたのだ。
ただし、コマーシャルベースでのバックパッキングは、用品を中心に形としてのスタイルは普及したものの、その本質となった哲学までは普及したとはいい難い。

ベトナム反戦、ビートニクから尾をひくヒッピー、コミューン、カウンターカルチャーの一連の流れの中にそれは現れるべくして現れてきたのだが、日本ではパックフレームなどのギアスタイルの流行に留まった感がある。
その本質の概念の普及が見えだすのは、日本ではむしろバブル崩壊後の90年代ではなかろうか。

この本は見事にそれらの「モノ」の本である。
アメリカ流を徹底した、物質文明の真髄のようなカタログ本であり、また徹底的な横文字の羅列に辟易された面があるが、それもアメリカの概念であるバックパッキングを理解するうえで必要と著者は思ったのであろう。

その成果の一面は見事に現れて、その後の日本の登山用品カタログは様変わりしてしまったのだ。
ヨーロッパ言語が殆どを占めていた用語も英語主体になってきた。
「アウトドア」という言葉と概念も普及した。
自然や環境に対する接し方も変わってきた。

「モノ」から入る哲学。
世界一の物質文明の超大国ならではのアプローチだったといえるのではないだろうか。

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